漫画のために早退したい

読んだ漫画のてきとう過ぎる備忘録ネタバレ前提。他。

2017/04/08 ヒル①~⑤/今井大輔


ヒル 1巻 (バンチコミックス)

ヒル 1巻 (バンチコミックス)

 

 

佐倉葉子21歳。彼女は不当に手に入れた鍵を持ち、住人が不在の家を渡り歩いて、生活をしている。
そんな葉子の前に、突然現れたのは、死んだはずの同級生・月沼マコト。
彼の口から語られるところによると、葉子は知らず知らずのうちに「ヒル」と呼ばれる存在になっていたらしい。
「ヒル」とは一体、何なのか? 
『SEED』の今井大輔が描く、新時代のドロップアウトトーリー、待望の第1巻。

 

 
「住人が不在の隙を狙い、予め手に入れた合鍵で侵入し、生活用品も拝借し生活する」という設定の引きがよい。
 
合鍵は、住人のゴミ出しの隙に部屋から鍵をくすねて作り、また部屋の適当な場所に落としておく、という手法等で手に入れると描写されている。
そして住人が仕事や学校に行っている間に侵入。
風呂もベッドも使い、気づかれない程度に食料や生活用品も拝借する。
そうして色々な家、部屋を渡り歩く生活をする「ヒル」。

そのへんを歩いていそうな普通の女の子が、この生活をしているところから始まる。
癖がなく安心感のある絵柄で、拒否反応なく引き込まれる。
 
主人公、佐倉葉子。通称、ハコは、自分のしている行為が「ヒル」と呼ばれることを元々知らなかった。
しかしそのうちに自分のしている行為が「ヒル」なのだと知らされ、
そこから「ヒル」達の少々危険な世界に足を踏み入れていく。

背景はかなり白いが、ここまでの設定とキャラクターの魅力でだいぶ持って行かれる。

ハコがヒルとして再会する同級生、月沼。通称、空っぽの「カラ」。
このカラが、個人的には「多重人格探偵サイコ」の西園弖虎を思い出させる。
鬱陶しそうな長めの黒髪にサイコなキャラ。
しかしハコと再会し、その内面は少しずつ変化し、そして時に感傷的な面も見せるようになる。

そういえば弖虎も黒髪ショートの女の子”苗美”相手には情があるような、感傷的になっているような描写があったな。
あれも色々な因縁があった訳だけど。
あといまSimejiで打ってたら「てとら」の変換の中に普通に弖虎が入っていた。
すごいぞSimeji。

そのカラの、この台詞が好きだ。

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なんだかすごく安心した。
私たちが普段求めている娯楽も質のいい(とされる)生活も、人間関係も様々な悩みも、全ては贅沢品なんだ。
本当は、ただ食べて寝て働く、それだけで充分すごいし、それでいいのだ、と。
生きていくということを、一気に俯瞰で見ることの出来る台詞。
ずうっと大事に持っていたいような台詞だ。

また、ストーリーとして一番好きだったのは、
全身整形女、ロボの過去と最期。
この漫画のエピソードの中で一番好きだ。
 
太っていて醜く、自信が持てずいじめられ、家に引きこもっていたロボ。
そこに強盗目的で侵入したカラ。
 

誰にもしゃべるな でなきゃ殺す
 
死に゛だい゛ 殺じでぐだざい゛

 


 じゃ  死ぬ前にやりたいことあるか?

…オシャレして  キレイになってみたい…です

 

そしてカラはロボを連れていく。
ロボはただ死にたいだけの日々から、カラに一度殺され、生まれ変わった。
それ故カラに強く執着した。
手に入らないなら殺してしまおうと思うほど。
 
しかし最終的に仲間たちはカラを選び、
カラを殺そうとしていたロボは、逆に自分が殺されそうになる。
 
ロボは“残ってるお金全部あげるから”と、最期の時間をもらう。
カラをホテルへ運び、精一杯のオシャレをして着飾り、

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そして眠っているカラのそばで自決する。
 
特に好きでないキャラだったのに、
潔く死に向かうロボを見て「死なないで」と強く思ってしまった。
 
好きなんだよなあ…こういう少女性と狂気の入り混じったようなモチーフ。
美しさに執着する少女が、この世で一番愛した男の元で自ら命を絶つ。
その視野の狭さ、極端さ、プライド。
上手く言えないけれど、嶽本野ばらの「それいぬ」あたりを想起します。
はあ。最近触れたものの中で、一番いい死に様だった。
 
さて。
ここからは、いまいち残念だった点を挙げていく。

後半、主人公ハコの頭がキレすぎて違和感が拭えない印象があった。
敵がいまどういう心境で、どういう行動パターンを取るのかを察知するのが急激に上手くなった。
元々地頭がよかったのだろうか。ヒルを続けるうちに身に付いた危機察知能力か?カラに危害を加えられたことによる覚醒か?
ヒルのルールとしての「ノック」も出来なかった子が、
ちょっとぶっ飛んじゃってる殺人鬼と対等に渡り合っているから驚きであった。

また、ラスト。
この漫画は、全体の話のテンポがとてもいい。
あっさりと進んでいくが、それだけに淡々と読めるし読みやすい。
「マンガZERO」というアプリで全話配信もされているが、テンポのよさと軽さを考えると、アプリ配信向けの漫画だと思う。
だがそれ故に、ラストの一番盛り上がらねばならないシーンもややテンポがよすぎて物足りなく感じた。

話の展開としては予定調和なのである。
ラスボスとの戦闘、ふたりの共闘、勝利。

予定調和が悪いわけではない。
例えば、戸愚呂が100%になろうが幽助は勝利するに決まっているし、
承太郎がディオに負けるわけはないのだ。
そういう「読者の予測」の中で、予定調和をいかに面白く盛り上げ、迫力を持って表現するか。
その点が若干弱く感じた。

テトリスのラスボス感も弱い。
テトリスは登場からラスト付近まで小物じみた印象が強かったし、
それ故にラストの戦闘もあまりハラハラしないで読めてしまった。
ナナシくらいのオーラがあった方が、ラスボス!勝てるのか!?という気分になった気がする。

と色々勝手を言ったが、
ラスト、ハコが前を向けたこと、
また、おそらくカラはバス乗り場に来たと思うんだけど、
カラもきっとおばあちゃんの元に帰るだろうこと。
それはよかったのかなと思う。
カラは人を殺めているからきっとずっと苦しむのかもしれないけど、
おばあちゃんは幸せにしてやってくれよ。

あとは、時々ロボのことを思い出してください。


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