漫画のために早退したい

読んだ漫画のてきとう過ぎる備忘録ネタバレ前提。他。

2017/02/11 さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ/永田カビ

 

さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ

さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ

 

 

高校卒業から10年間、息苦しさを感じて生きてきた日々。
そんな自分を解き放つために選んだ手段が、
レズビアン風俗」で抱きしめられることだった──
自身を極限まで見つめ突破口を開いた、赤裸々すぎる実録マンガ。

 

 

Pixivから商業へ出た漫画。

各地のレビューを読むと、わりと批判が目立つ。
それはこのタイトルに
「レズ風俗のレポ漫画か?」
LGBT、特にLの啓蒙に役立つ漫画では?」
のような期待が浮かぶからである。

確かにタイトルと主題は合ってない。

本誌にとっての「レズ風俗」とは作者、永田カビが自らの心の隙間を埋めようともがく過程での、ひとつの手段としか描かれていないからだ。

濃厚な風俗描写、レズビアンに対する真摯な意見、思想、レズ風俗とはそもそもどんな場所で、どんな人達がいてどういう活用のされ方をしているのか?

そういうことは全く描かれていない。


しかしこれはPixiv時代から作者がつけていたタイトルで、
そのまま採用しないと認知度的にもPixivを見ていた層には手に取ってもらいにくくなるだろうし…難しい。

何も先入観や期待を持たず内容を読めば、
これが勇気と生きる底力、そしてそこからの再生への物語だという点に感動出来るのではないかと思うのだが。

私はただただ、永田カビの「生きるために必死で現状を分析し、突破口を見出す」、その力にいつも舌を巻く。

この人に病名がついているのか、それがどんな病名かは語られていないのでまったく知らないが、抑うつ的なところは多々見受けられる。
そうなったらおおよそ、ただ蹲っているだけしかできなくなったり、とにかく逃げ出したくなったりすると思うのだが、この人はそれだけで終わらない。

少しずつでも進んでいく。苦しくても進んでいく。

彼女の中には自分を厳しく𠮟りつけ傷つけてしまう自分がいると思うのだが、
一方で、なんとか自分を助けようという自分もいる。
底なしにつらいはずなのに、その強さがすごいなあといつも思う。

結果、精神医学系、カウンセリング系の本に書いてあるようなことがこの人なりに考え抜いて出された結論として書かれてるからまたすごい。
よくそんなことに気づけたなと、いつも感心する。

「過食をしている人」は、ああ見えてめちゃくちゃ苦しい
ちなみに「自宅療養してる人」も大体苦しいんじゃないかと思う


この一節には感動したなあ。

自宅療養している人も苦しいだろうなんて、あまり思い至らないんじゃないだろうか。
それどころか、無神経で傲慢でそれ故やたら健康な人ほど「家で毎日寝ているだけでしょ」「一体何やってんだか」「働けばいいのに」などと悪態をついてくる。
そうでない人も、どこかで「ゆっくり休んでるんでしょ」くらいの気持ちは持っている人が多いんじゃないか。

自らが「働けない」「動けない」「何もできない」、この状態でいることのつらさ。
この日本で、病気を抱え、社会に参加できず、病気故に人の目に怯え、病気故に常に強い自責の念に追われ生きる。

そうして毎日有り余る時間を過ごすのはかなりきつい。

毎日吐きながらでも仕事をしてた方がなんぼかマシなんじゃないかと思うくらいには。


レズ風俗でお姉さんに優しくしてもらってもなお己の心にある空虚に罪悪感まで抱えながら、永田カビはレズ風俗体験を終える。

つくづくお姉さんが優しくて
なのに心を開けず
それをひとつ残らずこぼして受け取れずに
駅の階段を降りた


「自分を好きでなければ、人に好かれたって何の意味もない」。
最近ネットで拾った言葉であるが、
同様に、「自分に優しくなければ、人に優しくされたって何の意味もない」のかもしれない。


だって、自らを、優しくされていい存在だと許可出来ていないのだ。
幼児期の満たされない自分がわーわー泣いているのを厳しくしばき倒している人間に、それさえ認識できていないまま苦しんでいる人間に、誰かの差し伸べた優しさは届くのだろうか。

自分という土台がしっかりしていなければ、誰かから何かを受け取ることも、それを育てることも難しい。
そして現代の日本は、そういう人間で溢れている気がする。

先述のモノローグの本当の深い実感も、永田カビがそういう人間なのかも私には分からない。

ただ、お姉さんに心を開けなかったなら、それでいいじゃないかと思うのだ。
それをまるで自分に欠陥があるかのように捉えなくても。

風俗なら心の穴が埋まると思った。やってみた。ダメだった。
その空虚感だけでも悲しいのに、更に罪悪感なんて抱えなくても。

みんなもっともっと、自分を苛めず生きていけないものか。
嫌なことなんて向こうからいくらでもやってくるんだ。
だから、自分だけは自分を守って、認めて、大切にしてほしい。

読み終えた後、ひとつの精神医学関連の文献を辿り終えた気分だった。
彼女は、自分にしか描けない、よくこれを描けたなと思えるエッセイを描きたい、と言っていた。
私も、これからも永田カビが時に号泣し時に力強くもがく様を見たい。

それは私に、生きることへの思索と、同じように強くもがく勇気を与えてくれる。

 

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