2017/03/04 トッキュー!!/小森陽一、久保ミツロウ
全然「今日読んだ漫画」になってませんが、溜まってるからしょうがない!
早く過去の分を消化せねば。
幼い頃に亡くした漁師の父親の言葉から、人命救助を志す新米潜水士の神林兵悟(かんばやし・ひょうご)。
配属から4か月、ついに本物の海難に遭遇する!
まっすぐ立っていられないほど荒れた海、見えない目標、ダメかと思ったその時、兵悟は潜水士の最高峰「特殊救難隊」のレスキューを目撃する!!
読み終わってしまった…。
今年読んできた中で間違いなくトップの面白さだった。
電子で無料で読み始めたが、その3日後には全巻買い揃えていた。
キャラひとりひとりがとにかく魅力的であり、作画も読みやすく安定している。
ストーリーはやや予定調和な部分もあるがスリルも充分にあり、
私は海難救助、特殊救難隊の知識なんてなかったのでとにかく興味深く、面白かった。
機材、風景の描き込みがまたすごい。
船舶、複雑な船内、ヘリ、ボンベやゴーグル、瓦礫。
海難の話ゆえに頻繁に現れる水の表現。海や潮流、波、渦、酸素、気泡。
ストーリーに引き込まれキャラクターに引き込まれ、
ぐんぐん読み進めているからあまり意識せず読んでいたが、
ふと読み返すと細かくリアルな背景描写の上に自然に人物が載っていて、生きている。
「おや?背景が白いな。忙しかったのかな」とか、
「ここの描き込みが雑だな」とか、
こういうことをまったく感じずに20巻を読み終えた。
この違和感のなさはすごい。
それだけに、かなり言われている最後の打ち切り感だけが悲しい。
最終巻後書きにて久保ミツロウが
20巻で終わることは連載途中から意識して描いていた
と書いているので、久保ミツロウ、小森陽一両氏の中ではここまで、という区切りがあったのかもしれない。
また、
皆さんの中の「トッキュー!!」に最後までつき合えずにここで一旦作品は終わりますが
という記述があることから、作者本人も「描き切れなかった」という思いはあるようである。
当時の該当スレも漁ったが、やはりファンの悲しみの声は大きい。
いちファンとして、今更ながら私もこの淋しさを吐きだしたい。
というわけで以下、もっと知りたかった彼らの話を箇条書きで。
・主人公、神林兵吾の名前に入る「神兵」の伏線。
兵吾の憧れる上司、真田甚の二つ名と同じ→第二の神兵?と予想されたが、まったく触れられないまま。
・石井盤がどうしてあんなにひねくれているのか。入院時の神経質そうな両親の描写だけで終わりなのか?
・嶋本が保大時代に比べてあそこまで丸くなった過程。五十嵐と共にいた五管区時代の話も読みたかった。
・真田が五十嵐に惚れていた過去があったのでは?
(”どんどん先へ行ってしまう伊藤に離されたくない”のシーンで回想される五十嵐の笑顔)
・真田の過去をもっと濃厚にやってほしかった。五十嵐の悲しみなど、当時のエピソードをしっかり読みたかった。
・六隊の新しいレスキューというものがいまいち分からないまま終わった。
・兵吾のお母さんのユリに対する「あの子(のレスキュー)を止めてくれ」という涙の訴え、気持ちの消化がされないまま終わっている。
・ジャカルタから帰国後トッキューから外された兵吾の心の動きがあまり描かれていないので、盤に図星を突かれて激昂する場面、真田にトッキューに戻ってこいと言われ涙する場面、それぞれに感情移入が難しかった。
正直、はじめに読み終えた時は「打ち切りだな…」と思った。
それほどにあっさりと終わった。
今までのあれは?これは?という思いが頭の中でうごうごしていた。
本当にキャラクターが魅力的だったので、それぞれをもっともっと掘り下げてほしかった。
彼らのレスキューを、もっともっと見ていたかったなあ…。
でもジャカルタのKPLPや現地の人(ミムラさん、アスリ等)をほったらかしにしないで、
現地の大地震、国際緊急援助隊と結び付けて最終回に繋げたのはすごくよかった。
「それがお前の答えだ」という文字と共に瓦礫に飲み込まれる兵吾のシーンには震えた。
また、真田の過去回想時、
真田が有を背負っていこうと決意したシーンで描かれる、片目が二重になった表情、その決意の眼差しには強い力が宿っているようだった。
それほどに表現力があり、目の描き込みが素晴らしい、いい一コマだった。
そうそう。真田の顔の造形について、
久保先生がレディオヘッドのトム・ヨークをモデルにして描いたというのは面白いエピソードだった。
いま流行りの「ユーリ!!! on ICE」でも様々なフィギュアスケーターをモデルにしてるらしく、そこを辿るのもなかなか面白い。
トッキューで真田隊長の顔を決める時、レディオヘッドのトム・ヨーク見ながら美しさの要素をひたすら推敲して投影したけど私が言い出さないと誰も気づいてくれなかったし気づかれなくてももう真田隊長の美しさは真田隊長を表現するために一人歩きしてたからそういうもんだと思うんですよね。
— 久保ミツロウ (@kubo_3260) 2016年9月27日
お分かりいただけるだろうか。
真田は事故の衝撃で右目が二重、左目が一重になったが、
トム・ヨークは両目が二重ながらも右目の二重幅が左目より広く、眇めたような目つきになっている。
これが真田のモデル。
ああかっこいい。
さて、長々語ってきたが、
私にとってはこれが初めての久保ミツロウ作品である。
久保ミツロウといえばモテキ!アゲイン!恋愛!青春!映画化!だろ?今時のちょっと眩しすぎる漫画なんだろ?と何となく思っていたが、
原作ありきとはいえこんなに硬派で面白く表現力豊かな作品を生みだせるのだから
きっと他の漫画も面白いんだろうな。
読まず嫌いせずに読んでみます。ごめんなさい。
そしてこの「トッキュー!!」という作品で沢山の知識と世界と感動と
新たな「大好きな漫画」を増やしてくれて、ありがとうございました。